昨今、社会全体としてSDGsやカーボンニュートラルといった環境意識への高まりとともに、「木造建築」の価値も見直されてきています。
「木造建築」と聞くと、住宅や神社仏閣をイメージする方も多いのではないでしょうか。
実際、これまでは、商業施設や公共建築物、中高層ビルといった中大規模建築物には鉄骨・鉄筋やコンクリートが主に使われてきました。
しかし最近では、中高層建築物での木材利用に注目する動きが広がっています。
従来、“非住宅(=住宅用途以外の用途で建てられる建物のこと)建築物”に多かった鉄骨/鉄筋コンクリート造ではなく、積極的に木造を採用して非住宅建築物を造る事例が増加しているのです。
その理由や背景にはいくつかの要因が挙げられますが、ここでは「環境意識の高まり」と「法改正」に着目します。
まず、環境意識の高まりや、脱炭素、ESGの観点。
木材は再生可能な資源であり、製造過程での二酸化炭素排出量が少なく、持続可能な素材として注目されています。木造建築は、成長過程で二酸化炭素を吸収した木材を使用するため、カーボンフットプリントの削減にも貢献できます。廃棄時に環境負荷が少ないこと、再活用されやすい素材であることも重要ですね。
SDGs(=持続可能な開発目標)が国連総会で採択されたのは2015年ですが、この考え方が社会に浸透してきたことも大きいと思います。
そしてもう一つ大きなファクターとなったのが、建築基準法の改正や規制緩和などです。
2019年の建築基準法改正により、木造建築の高さ制限が緩和されました。以前は木造建築は原則として2階建てまでとされていましたが、改正後は特定の条件を満たせば3階建てやそれ以上の高さの木造建築も可能となりました。
さらに防火規制も緩和され、従来の規制では、防火性能が高い材料を使うことが求められていましたが、新しい技術の発展により、木材自体の防火性能を高めることが可能になり、それに伴って防火規制も見直されたのです。
2018年の建築基準法改正や「木材利用促進法」の制定など、国も政策として木造建築を推進しています。
もともと木造建築が有していた可能性に改めてスポットが当たることとなり、木造の価値が見直されてきています。
木造化の波は 学校の校舎にも
公共建築物でも木造化を積極的に取り入れていこうと、国内でも積極的に推進されています。
ここからは、学校の校舎の建築に着目していきます。
日本の学校の校舎は、長らく鉄筋コンクリート造が主流でしたが、近年では木造施設を新築する学校が増加してきています。
長らく主流であった鉄骨造や鉄筋コンクリート造と、木造を比較して、建築にかかるコスト面や建築時のCO2排出量などをみていきましょう。
学校の校舎建築においては、鉄骨・鉄筋コンクリート造がおよそ9割を占めている。
木造の割合はわずか2%にとどまっているのが現状。
次に工事費予定額の比較です。
鉄骨の次に木造が安価である。
続いて、二酸化炭素排出量について。例として住宅建築の構法別に比較します。
成長中の木は、光合成によって大気中の二酸化炭素を取り込み、、吸収された二酸化炭素は木の中に炭素として取り込まれます。伐採して木材製品に加工されたあとも、取り込まれた炭素は固定されたままです。
また、木材製品は、鉄やコンクリートなどの資材に比べて製造や加工に要するエネルギーが少ないので、製造や加工時における二酸化炭素の排出削減につながります。例えば、住宅の建設に用いられる材料について、その製造時における二酸化炭素排出量を比較すると、木造は、鉄筋コンクリート造や鉄骨プレハブ造よりも、二酸化炭素排出量が大幅に少ないことが分かります。
建築時のCO2排出量についても、鉄筋コンクリート造よりも低く抑えることができる。
以上のことからも、学校の校舎を建てるにあたって、コスト面で木造が優れていること、そして建築時のCO2排出量は木造が圧倒的に低いことが分かります。
費用・環境の両面において木造は優れているのです。
現状、まだまだ鉄筋コンクリート造が多いですが、文部科学省や政府も木材の利用を奨励しており、新築・改修される校舎では木造が増えていっています。
奈義町立中学校改築工事に院庄林業の木材が使われています
岡山県の北部にある奈義中学校は経年劣化等の懸念から、平成27年に耐震診断を実施した結果、「耐震性能が不足している」と判定され、耐震化が喫緊の課題となりました。それに伴い建替えが決定し、令和4年5月より改築工事がスタート。
設計についてはプロポーザル方式での受託決定で、受託者の提案により一部木造化が決定しました。
一般流通材を利用することによってコスト削減が図れるほか、県産材の利用による地場産業の振興などといった利点が挙げられたそうです。
新しい校舎はRC造・鉄骨造・木造又はそれらの複合構造等で計画され、木材を豊富に使用した温かみのある空間が造られていっています。
〈奈義町立中学校改築工事〉では、既に東棟・南棟・ナギヒロバ棟は完成しており、現在北棟が建築中です。
完成した校舎は、いずれも木材をふんだんに使用した温かみのある空間となっており、中学校に通う学生さんは快適な学校生活を送っているそうです。
また、新校舎を活用して、さまざまな取り組みも行われており、「ナギヒロバ」という中央階段を含む広いスペースでは、全校生徒が集まり、式典や生徒総会を開いています。
(奈義町広報誌より一部抜粋)
県産の木材をふんだんに使用
建設中の新校舎は2階建て、RC造(鉄筋コンクリート)+W造(木造)、一部S造(鉄骨造)という構造。
この工事において、院庄林業は柱、梁、土台、羽柄材を納品しています。構造材は全て岡山県産のヒノキ材を使用。柱は院庄林業の無垢材「乾太郎」、梁は集成材を納品しております。
構造躯体に関しては、岡山県産材のオールヒノキを採用しており、 これらは院庄林業で製造した木材です。
建材については、木下地(もくしたじ)材が院庄林業の製品で、こちらも岡山県産材のヒノキorスギを使用しています。
※木下地とは合板などの木の下地材のこと
こちらは、現在建設中の工事の様子
奈義町立中学校改築工事については、北棟が完成したらこちらのHPでもお知らせいたしますので、またぜひチェックしてみてください♪
材料となる木材は、すべて岡山産ヒノキ!
津山信用金庫の新しい店舗がお目見え
津山信用金庫の二宮支店は、店舗の老朽化に伴い新築工事が進められています。
今年5月にプレオープンした店舗は、脱炭素化のシンボルとなるようなデザインで、地元県産材『美作ひのき』をふんだんに使用。ラウンジは全面ガラス張りの吹き抜けの大空間となっており、訪れる人に開放感と心地良さを提供してくれます。
この建物は、津山信用金庫・院庄林業・津山市の3社で締結した「美作ひのき等利用促進に関する協定」をもとに建築した第一号店舗となっており、地元木材の利用意義やメリットを体現した建物です。
岡山は日本でもトップクラスのヒノキ生産地。その岡山県産ヒノキの新たな販路開拓、地元木材産業の活性化、地域内経済循環、さらには健全な森林サイクルの好循環につながることを目的とした協定で、今後も新店舗や中低層オフィス等、非住宅木造建築物の普及を目指しています。
構造は木造軸組工法。日本の伝統的かつ汎用的な工法で、木のぬくもりや存在感が引き立つ造りとなっています。
木材の調達・加工はすべて院庄林業が担っている
院庄林業の工場や加工場は建築現場から10キロ圏内にあり、配送を含む建築時の輸送コスト・環境負荷は極めて少ないことも、大きな利点として挙げられます。
さらに、材料となる木材は、すべて岡山県産ヒノキで使用量は107m3。林野庁のガイドラインで算出した二酸化炭素貯蔵量は年間75t-CO2となり、脱炭素社会の実現にも寄与しています。
今年9月には、外構を含む工事がすべて完了し、正式オープンする予定。
近くに来られた際は、ぜひお立ち寄りください。