カナダやオーストラリアなど、世界各地で大規模森林火災がニュースになっている昨今。
アメリカのロサンゼルスロサンゼルス近郊の山火事は1週間以上延焼を続け、1万2000棟以上の建物が被害を受けているとも報じられています。
世界の山火事による森林消失は、ここ20年でおよそ2倍にも増加していると言われており、世界的に森林火災が深刻な問題として浮上しています。
国連環境計画(UNEP)の報告によると、世界で毎年約423万㎢(日本国土の約11倍の面積)の森林や草地が火災の被害を受けています。(2023年のデータ)
特に2021年~2024年にかけては、異常気象や気候変動の影響で大規模な森林火災が急増しています。
2023年 カナダの森林火災
【被害面積】約1,700万ヘクタール(日本全土の約4倍)。 過去40年間の平均の7倍であったとされる。
【影響】炭素排出量は6億4700万トンとされており(Nature誌の論文より)、これはカナダの化石燃料による年間排出量の少なくとも4倍に相当する炭素を大気中に放出していたということになる。よって、世界中の空気質に悪影響を及ぼした。
【火災の主な原因】長期間の高温乾燥、気候変動による気温上昇と深く関わっているとされる。
2019〜2020年 オーストラリアの森林火災「ブラックサマー」
【被害面積】約1,860万ヘクタール。
【影響】CO2排出量は約4億トン以上と推定されているほか、ニューサウスウェールズ州だけで5億もの生き物が焼死したと言われている。コアラは総数の3分の一に相当する個体が死亡するなど動物生態系への影響も甚大である。
【火災の主な原因】少雨と乾燥。もともと乾燥している国土であり、2019年は例年に比べても約半分の降水量だったことが大きな原因の一つとされている。
気候変動により、気温上昇と降水量の減少が火災リスクを高めていることが分かります。特に2023年の夏は、世界の平均気温が観測史上最高を記録(IPCC報告書 2023年版)。 気温が1℃上昇するごとに、森林火災の発生リスクが10~30%増加するとも言われています。
ニュースなどを見ていると、「遠い場所で起こっていることだ」と思いがちですが、大気汚染や生態系への影響など、私たちの生活にも直結する問題。
二酸化炭素を取り込み、大気を正常に循環させてくれることから、「森林は地球の肺」と呼ばれています。火災はその肺を奪うものです。
日本国内の森林火災
日本での森林火災は、長期的には減少傾向で推移しています。
直近5年間(平成30年~令和4年)の平均でみると、1年間に約1300千件発生し、焼損面積は約700ha、損害額は約2.4億円。
2023年の発生件数は1239件です。
(林野庁HP:林野火災の発生状況・推移より)
2023年 北海道・知床での森林火災
【被害面積】約120ヘクタール。
【原因】登山者のたき火が発端とされている。
【影響】希少な植物が生息する地域での火災であり、生態系への悪影響があったほか、観光業にも大きな打撃となった。
2023年 兵庫県丹波市の森林火災
【被害面積】約15ヘクタール。
【原因】地元住民の焼却作業の不注意。
【特徴】過密状態の人工林が燃え広がりやすかったと報告されている。
森林火災の主な原因
国内での林野火災、自然発火は稀で主な原因は人為的要素とされています。
焚き火、タバコの不始末、農作業での焼却作業などが主な原因。
特に人工林では、枯れ枝や葉が積み重なっているため、火災のリスクが高まります。日本では、戦後に植えられたスギ・ヒノキの人工林が多く、管理不足が火災リスクを助長してるという意見もあるそうです。
森林火災がもたらす影響
冒頭でも触れたように、森林火災は、環境、社会、経済に対して多大な影響を及ぼします。
環境への影響
CO2排出と地球温暖化への影響
森林は通常、二酸化炭素(CO2)を吸収する「炭素吸収源」です。しかし、火災が発生すると膨大な量のCO2が放出され、大気中の温室効果ガス濃度を高めます。
前述したように、2023年に発生したカナダの森林火災では、炭素排出量は6億4700万トンにものぼるとされており、これはカナダの化石燃料による年間排出量の少なくとも4倍に相当します。
日本の森林火災では、規模が比較的小さいものの、1ヘクタール当たり約20トンのCO2が放出されると試算されています。
森林火災が続くことで、脱炭素社会への取り組みが後退するリスクがあります。
生態系の破壊
林野火災は、生態系に取り返しのつかないダメージを与えます。動植物が死傷するだけでなく、生き残った生物も住処を失い、特に森林に依存する希少種が絶滅の危機に瀕します。
2023年の北海道知床の森林火災では、エゾモモンガや希少な植物群が影響を受けました。前述したオーストラリアの「ブラックサマー」では、約30億匹の動物が死傷したと推定されています。
木や植物が焼失すると、森林が回復するまでの間、特定の種が優勢になることで植生の多様性が損なわれる可能性もあるのです。
土壌への影響
土壌流出と劣化の被害も深刻です。森林が焼失した後、樹木が持つ土壌保持能力が失われ、その結果、雨が降ると土壌が流れ出し、下流域の洪水リスクが高まります。
焼失地の土壌回復には数十年以上かかる場合もあるとされるなど、火災で焼けた土壌は養分を失い、再生に長期間を要します。
社会的な影響
生活インフラの破壊
森林火災が周辺の住居やインフラに広がると、避難が必要になるほか、長期間にわたる復興が必要となります。
海外の山火事が多く発生する地域では、年間約数千世帯が火災によって住居を失ってるというデータも。日本では、2000年代初頭に起きた長野県の森林火災で、付近の山間部の集落が一時避難を余儀なくされました。
健康への影響
CO2の大量発生だけでなく、森林火災の煙にはPM2.5や有害物質が含まれており、呼吸器疾患やアレルギー症状を引き起こす可能性も。
2023年のカナダの火災では、煙がアメリカ東部にまで拡散し、ニューヨークでは空気質指数が「危険」レベルに達しました。
経済への影響
森林資源の喪失
木材や林産物への損害。森林火災で焼失した木材は商品価値を失います。特に人工林が被害を受けると、林業への経済的ダメージが大きくなります。人工林が密集する地域での火災では、林業経営に深刻な損害を与えました。
経済復興のコスト増加
火災で失った経済損失に対する復旧費用も甚大になります。消火活動や被害地の再生、地域住民の支援などに多額のコストが必要。
2023年に発生したハワイのマウイ島の山火事による経済損失は最大60億ドル(約9300億円)に上るとも言われています。
長期的なリスク
気候変動の加速
森林火災によるCO2排出と森林の消失が連鎖し、気候変動が加速。これがさらに森林火災リスクを増大させる「悪循環」を引き起こします。
森林の回復遅延
火災後の森林再生には非常に長い時間がかかる場合があります。
天然林では植生回復に数十年から100年が必要とされることもあります。
多大な悪影響をもたらす森林火災。世界規模で見ると、その被害は増大しています。
米シンクタンク「世界資源研究所」の報告では、山火事により近年の平均で800万ヘクタール以上の森林が焼失しており、これは東京都の約40倍の面積にも相当する面積。20年前と比べ2倍近くに広がっており、その対策が急がれています。
防止策に関する様々な取り組み
森林火災を防ぐためには、環境管理、技術活用、地域社会の協力といった多面的な対策が求められます。日本国内と世界の具体的な取り組みを紹介します。
日本国内の防止策
◆防火林の整備
防火林とは、火災が広がるのを防ぐために、耐火性が高い常緑広葉樹(ナラやクヌギ、サンゴジュ、カシなど)を植えて作る緩衝地帯のこと。
防火林は、火災が燃え広がる経路を遮断し、被害を軽減する役割を果たします。
◆人工林の適切な管理
日本の人工林では、密度が高い状態のまま放置されている森林が多く、枯れ枝や葉が燃料となり火災を助長します。(前述した兵庫県丹波市の森林火災など)
適切な間伐により、林内の風通しを良くし、燃えやすい物質を減らすことができます。また、林業従事者の高齢化が進む中、若者への林業教育や支援も大切になってきます。
◆最新技術の導入
ドローンやセンサーによる火災監視も最近では導入されてきています。
兵庫県のドローン監視システムでは、人がアクセスしづらい山間部での火災監視に活用されるなど、火災の早期発見に利用されています。
世界の取り組み
カナダ:AIとデータ分析を活用した火災監視
カナダのブリティッシュコロンビア州バーノン市は、最先端のAI駆動型山火事検知システムを導入。バンクーバーを拠点とする SenseNet 社が開発したこのシステムは、カメラと空気センサーを使用して揮発性有機化合物、粒子状物質、熱画像を監視し、山火事をほぼ瞬時に検知できるというもの。火災の早期検知によって壊滅的な被害を未然に防ぐという目的のもと運用されている。
オーストラリア:アボリジニの伝統的な火入れ
伝統的な火の管理技術を活用。アボリジニの人々は、乾燥地域での「文化的火入れ(Cultural Burning)」という手法を活用して、火災を予防している。これは、乾燥期の前に、意図的に低温の火を小規模に入れることで、過剰な植生が燃えるのを防ぐというもの。
この伝統技術が近年見直され、科学者や地域社会が協力して応用を広げている。
スペイン:山羊や羊の放牧で防火
スペイン・バルセロナの消防隊は、古くから森林火災予防の一環としてヤギを放牧し、森林の草や低木を食べさせて燃料となる植生を減らす取り組みがを行っている。これは、燃えやすい草木を減らすだけでなく、地面に残ったフンが有機物として土地に戻されて地力を強め、保水力を高めるという効果もある。
森林火災を防いでいくために
森林火災を防ぐためには、地球規模の取り組みと同時にそれぞれの地域の特性に合った対策の両輪が必要です。
日本の森林火災のおよそ6割が人為的要素に起因していることからも、日常生活や活動時に一人ひとりが注意すること。焚き火やキャンプ時の火の扱い、ポイ捨ての禁止はもちろん、火災を未然に防ぐための意識が重要ですね。
私たち一人ひとりが火災リスクに目を向け、予防行動をとることが、未来の森林を守る鍵となります。