SDGsが2015年の国連サミットで採択されてから今年で10年になります。
社会全体でサステナビリティ(持続可能性)に対する関心が高まり、環境に配慮した消費行動や
サステナブルな投資をするなど、様々な形でサステナビリティへの意識が高まっています。
「この製品は本当にサステナブル?」
取引先や顧客のそんな問いに、感覚やスローガンだけでは応えづらい時代になりました。
求められるのは、数字と裏づけ・・・
つまり EPD(Environmental Product Declaration/環境製品宣言) です。
EPDとは、製品の原材料調達から製造・輸送・使用・廃棄まで、ライフサイクル全体で発生する環境負荷を定量化し、ISO14025や建材向け EN 15804などの国際規格にもとづいて第三者が検証・公開する仕組み。脱炭素経営やグリーン調達が加速するいま、企業への信頼を確立するための“共通言語”として急速に存在感を高めています。
サステナビリティを「見える化」することが、ビジネスの新しいスタンダードになりつつあります。
今回は、EPDの基本と取得プロセスや具体的な活用事例、導入によるメリットや今後の展望についてご紹介します。
EPDとは? 環境パフォーマンスを数値で表す
スーパーで食品を手に取ると、カロリーや原材料が一覧になった「栄養成分表示」が目に入ります。
EPD は、その“環境版の成分表示” と考えるとわかりやすいでしょう。
何を測るのか
上の図にあるように、材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄・リサイクルまで。
製品がたどる “ライフサイクル全体” で排出される CO₂ 量や資源消費量、水使用量などを数値化します。
どうやって信頼性を担保するのか
① 業界ごとのルール(PCR=Product Category Rules)を選び、
② LCA(ライフサイクルアセスメント)でデータを算出し、
③ ISO 14025/EN 15804 に準拠して 第三者機関が検証。
こうして出来上がった宣言書は、国際EPD® System などのデータベースで公開され、誰でも確認できます。
ISO 14025
JIS Q 14025は、企業等が製品やサービスの環境負荷(例えば、温暖化ガスの排出量)や環境貢献(例えばリサイクル品の使用量)を定量的に表示する方法を規定するものです。具体的には、製品やサービスのライフサイクル全体の環境影響を対象とすること、独立した検証プロセスの導入等の要求や、異なる環境ラベル間での比較可能性の確保につながる環境ラベル制度の協調化が規定されています。
環境省HPより
EN 15804
欧州の建設分野のEPDに関する規格。直近の改訂にて、建材の製造時のみならず、廃棄時やリサイクル効果の開示も原則必須となっています。
日本製鉄HPより
何が違うのか
例えばエコマークなどは“○か×か”の合格証に近い仕組みですが、EPD は数字そのものを開示するため、製品同士の比較や、企業の削減努力の進捗確認が容易になります。
一言で言えば、EPD は「環境パフォーマンスを数値で示すパスポート」。
取引先は調達判断に、投資家はESG評価に、そして私たち消費者は購入のヒントに
あらゆるステークホルダーが同じ物差しで、“サステナブルの度合い”を読み取れる仕組みが EPD なのです。

企業が EPD に取り組むメリット
次に、企業がEPDに取り組む実利的なメリットについて説明していきます。
環境への配慮はもちろんのこと、それだけに留まらない“実利”があるというのも企業にとっては重要です。
① 調達・入札で「選ばれる」
公共工事や大手企業の調達では、「環境データをきちんと公開している材料を優先する」という風潮が高まっています。
たとえば、公共調達のグリーン購入法や、建築環境評価の LEED/BREEAM では、EPD 付き部材を採用すると加点・優遇されるケースが増えています。
イラスト:Illustration by Freepik – Storyset

比較 | EPDなし | EPDあり |
---|---|---|
評価点 | 0 点 | +数点(案件によっては合否ラインを超える) |
② サプライチェーンの透過性とリスク低減
昨今、取引先も消費者の視点でも「この製品、CO₂はどれだけ出るの?」と細かい数字を求められることが多くなっています。
EPDを発行しておけば、原材料‐製造‐運搬‐廃棄までのデータが一枚の宣言書にまとまっているので、
探し回る手間ゼロ → 商談が止まらない → 信頼アップ
しかも、国や自治体に提出する環境報告(TCFD、Scope 3 など)にもそのまま流用できます。

③“環境に強い会社”というブランドが育つ
EPD は第三者のお墨付きでもあります。
投資家や海外のバイヤーにとっては、環境ラベルより説得力が高い“成績表”です。
- 投資家 … ESG評価が上がり、資金を集めやすくなる
- 海外市場 … 輸出時の環境規制をクリアしやすい
- 値付け … 「低炭素製品」として少し高く売れる余地
(資金調達のメリットについては、
過去記事「SDGs私募債って、なに?」も参照)

EPDを “受け取る側” のメリット
買う・使う・支える みんなにとっての“良いコト”
消費者:数字で“本当にエコ”か比べられる
店頭やネットで 「エコ」 「サステナブル」 という言葉はあふれていますが、どれだけ環境に優しいのかは見えにくいもの。
EPD は CO₂排出量や資源の使い方をグラム単位で表示しているため、
・同じジャンルの商品を成分表のように並べて比較できる
・「高いけれど環境負荷が半分」など、納得して選べる
という実用的な指標になります。商品を選ぶ際のひとつの指標になりますね。

法人顧客・取引先:調達リスクを減らせる
建設会社や小売チェーンは、仕入れた材料・製品の環境データを求められることが今後増えていくかもしれません。EPD 付き製品を選べば、
・追加の計算・書類作成がほぼ不要
・グリーン調達や入札書類にそのまま添付して提出
できるため、社内工数も法令リスクも大幅にカット。サプライヤー選定が“早い・正確・安心”になります。
投資家・金融機関:ESG評価が透明になる
投資家は「この企業のCO₂削減は本物か」を数字で確かめたい。EPD は第三者検証済みのデータなので、
・企業の環境パフォーマンスを客観的に比較
・「グリーンボンド」や「サステナビリティ・リンク・ローン」などの審査資料にそのまま転用
ができ、投資判断や金利設定の根拠として説得力が上がります。

近年は「環境に優しい」「エコ」とうたいながら、実態が伴わない いわゆる グリーンウォッシュ の事例が世界中で問題視されています。 EPD は ISO 規格に沿って数値を開示し、外部の審査員が検証しているため、企業の“自己申告”ではなく、 「客観的データであること」、「比較したい人が同じ単位・同じ方法で並べて評価できる」という点で、グリーンウォッシュを防ぐ強力なフィルターになります。 取引先や投資家にとっては「数字がそろっていない製品は選ばない」という判断がしやすくなり、結果として誠実に取り組む企業が正当に評価される市場環境づくりにつながるのです。
ひとことで言うと、EPDは“環境の共通指標”。
買う人・使う人・支える人すべてが「早く・正しく・安心して」選択できる
それが最大のメリットです。
国内外の事例
EPD は一部の先進企業だけの取り組みではありません。
建材・住宅設備のような業界はもちろん、紙やパッケージなど大量消費財でも「環境成分表示」を付ける動きが広がり、海外では林業機械やIT製品にまで波及しています。
ここでは、日本企業の事例に加えて、海外での木材メーカーや機械メーカーが、「どの製品で」「何のために」EPDを活用しているのか紹介します。

住友林業
木材・建材のライフサイクルCO₂をデジタルで一括算定し、EPD として公開する
独自プラットフォームを構築。
https://sfc.jp/treecycle/value/oneclicklca/epd/
対象はCLT パネルや LVL、戸建て用構造材など主力製品で、 海外プロジェクトでの採点アップやゼロカーボン住宅・ZEB 建築での採用拡大、サプライチェーン全体の CO₂ 削減計画(Scope 3)を可視化するという狙いがあります。
目標は、主要部材の8割で EPD を取得し、欧米市場での木造建築ビジネスを加速させること。 住友林業は「木材=カーボンストック」の強みを“数値化”して提示し、国内外の脱炭素建築需要を取り込もうとしています。
(日本経済新聞の記事参照)
その他の国内事例
企業・業界 | 取得・公開している主な EPD | 活用シーン/狙い | 参考リンク |
---|---|---|---|
大建工業 (建材・内装材) | 床材〈ダイハードアート〉、不燃壁材〈ダイロートン〉ほか多数 | 公共施設・学校・病院などのグリーン購入や加点など | https://ecoleaf-label.jp/organization/100 |
LIXIL (住宅設備) | アルミサッシ「PremiAL R100」、水栓金具 GROHE シリーズなど | 公共入札・輸出時に環境データを即提示し調達ハードルを低減 | https://ecoleaf-label.jp/epd/960 |
院庄林業 (製材・林業) | 機械等級区分構造用製材、JAS構造用集成材 | ハウスメーカー・工務店などの顧客に対し高付加価値の商品を提供 | https://ecoleaf-label.jp/epd/1751 https://ecoleaf-label.jp/epd/1750 |
海外での事例
企業・国 | 取り組み概要 | 参考 |
---|---|---|
Metsä Wood(フィンランド) | Kerto® LVLやLVL梁など主要製品でEN 15804+A2準拠EPDを公開。最新版を国際EPD® Systemに掲載し、欧州各国のグリーンビルディング基準に対応。 | https://www.metsagroup.com/metsawood/products-and-services/technical-information/environmental-product-declaration/?utm_source=chatgpt.com |
John Deere Forestry(米国) | 木材収穫機の環境影響を開示し、森林機械のライフサイクルCO₂を低減する技術開発をPR。北米の公共調達で「環境データ開示機械」として差別化。 | https://www.deere.co.uk/en-gb/industries/forestry/sustainability?utm_source=chatgpt.com |
EPD は単に“環境にいい”を語るラベルではなく、「どこで、どれだけCO₂を出し、どれだけ減らせるか」を示す共通の指標とも言えます。
住友林業や海外の木材大手は、ライフサイクルCO₂を即提示できる体制を整え、輸出・大型物件で受注を拡大。
EPD は価格・性能に続く、第3の差別化要素になりつつあると言えるでしょう。
今後はどんな業界でも「環境成分表示」が特別なものではなく、標準とされる時代が来るかもしれません。
院庄林業の取り組み
環境への“負荷”と“貢献”の 見える化へ
院庄林業でも、EPDに向けた取り組みを推進しています。
2件の商品で SuMPO EPD を取得・公開
前出の表にもあるように、院庄林業が生産する製品で、「機械等級区分構造用製材」と「JAS構造用集成材」の2件で
SuMPO EDPを取得・公開しています。
これは製材の製品では日本初となります。
今後の取り組み
企業活動に伴うCO₂の排出量を正確に把握し、その削減に取り組むことは、地球温暖化対策として極めて重要と捉え、工場での生産や日々の企業活動に伴うCO₂排出量を「見える化」。 環境への責任を果たすべく努めています。
また、排出量だけでなく、自社の製品や活動がどのくらい環境に寄与しているかも数値化。
木は成長過程でCO₂を吸収し、炭素としてその体内に蓄えます。製材された木材は、その炭素を内部に固定したまま建材として使用されるため、 CO₂は貯蔵され続けるのです。木材の活用は、地球温暖化の抑制に貢献する「カーボンストック(炭素の貯蔵)」として重要な役割を果たすということですね。
院庄林業では、自社の製品がCO₂をどのくらい貯蔵するのかという数値を、自社アプリによって算出しています。
さらに、院庄林業が推進する「匠 乾太郎 植林基金」の活動を通して社有林を広げ、伐採した後は植林→山林管理をしていくことで「循環型林業」の実現を目指しています。
生産におけるCO₂の排出量を削減していく取り組みと同時進行で、自社の生産活動、そして企業活動が、「どのくらい・どんなふうに」環境に貢献できているかを数値化し、目標に向けて日々アプローチしています。
近日中にHPでも公開しますので、ぜひチェックしてみてください!!
植林の様子は、Youtubeにも!!