森にも「投資」の時代がやって来ました。
「森林に投資する」と聞いて、ピンとくる人はまだ多くないかもしれません。
ですが今、環境問題や脱炭素の流れを受けて、“森にお金を投じる”という動きが世界中で注目されています。

そもそも森林投資とは、木材生産や森林保全に必要な資金を提供し、その見返りとして収益や環境価値を得る仕組みのこと。
- 木材を生産・販売して収益を得る「商業林投資」
- CO₂の吸収量に応じた「カーボンクレジット」を販売する森林プロジェクト
- 森林整備を支援することを目的に発行される「グリーンボンド」や「森林ファンド」
などなど
これまで森林保全や育成というと、国の補助金や地域の取り組み、またはボランティアといったものが主流でしたが、最近は民間資金や金融の力を活用しながら、持続可能な森づくりに取り組む時代が到来しつつあります。
「経済」と「環境」は、しばしば対立構造で語られがちですが、森林投資はそれを乗り越えるひとつの手段と言え流かもしれません。
森を守り、育てながら、地域経済も持続的に回していく そのために必要なのが、《森とお金をつなぐ仕組み》なのです。
また、「森林投資」と一口に言っても、その目的や資金源の違いによって多様な形があります。
誰が投資して(公共/民間)、何を重視するか(経済的リターン/環境・社会的リターン)、という2軸で整理すると、以下のような図になります。

民間主体(企業・投資家):収益性や資産価値の向上を狙う投資が多い。
経済的リターン重視:木材販売や収益配当など、金銭的な利益を中心に追求。
環境・社会的リターン重視:Co₂吸収や生物多様性、地域貢献といった非金銭的価値を重視。
この記事では、こうした森林投資の基本的な考え方や国内外の事例、そしてこれからの可能性について、ご紹介していきます。
森林と投資がつながる仕組みとは?
「森に投資する」とは具体的にどういった流れなのでしょう。
たとえば株式投資なら、企業の成長性や業績を見て買い、値上がり益や配当金を得る。
不動産投資なら、物件を購入して家賃収入を得たり、将来の売却益を期待する。
こんなイメージが湧きやすいかもしれません。
一方、森林は日々の価格変動があるわけでもなく、住宅のように“貸す”こともありません。ましてや「木を育てるのに数十年かかる」となれば、投資対象としてはとても“のんびり”したものに思えるかもしれません。
それでも今、森の価値を“見える化”して投資につなげる仕組みが、国内外で急速に広がりつつあります。森林ファイナンスの基本的な流れと、関わるプレイヤーの構造を見ていきましょう。
森林投資の仕組み
森林投資では、お金が「整備」や「育林」といった現場に届き、森が豊かに育つ。その森が二酸化炭素を吸収したり、木材として利用されたりすることで、新たな価値が生まれます。
こうした循環の中で、出資した側には環境価値や経済的なリターンが返ってくる──
。それが、森林ファイナンスの基本的な構造です。

森林投資の基本フロー
以下は、民間による森林投資の典型的なスキームです:
①森林を保有・管理する主体(森林所有者・森林組合)
②森林の整備や管理に関するプロジェクトを立案(例:間伐・植林・カーボンクレジット化)
③外部資金を募る(投資家・企業・金融機関など)
④プロジェクトの実施により、森林の価値を高める(資源量、CO₂吸収量、生物多様性など)
⑤その成果を可視化・報告し、収益や環境価値として投資家へ“還元”
このように、「環境価値を生み出し、それを資本として循環させる」ことが森林投資のキモです。
プレイヤーの多様化が進む
これまでは行政や林業者の関与が中心でしたが、近年は…
- ESG投資を重視する機関投資家
- 脱炭素に本腰を入れる一般企業
- 地域の金融機関・信用金庫
- 森林管理にノウハウをもつスタートアップ企業
といったプレイヤーが次々と参入。特に、「環境価値の創出」×「信頼ある第三者評価」 がそろうことで、これまで森林に興味のなかった層にも広がりを見せています。
それぞれの目的や形態に応じた森林投資
金融投資は、「誰が・何に・どんな目的で・どれくらい投資するか」で最適な組み合わせを決定します。
森林投資も同じで、それぞれのスキームが「お金の流れ(資金の出口)」と、「期待される成果(収益・環境効果)」に応じて分類できるでしょう。
スキーム | 資金の流れ | 主なリターン | 特徴 |
---|---|---|---|
グリーンボンド | 投資家 → 債券購入 → プロジェクト予算へ | 間伐・整備など公共性の高い森林施業 | 安定感があり、発行主体の信頼性が鍵 |
森林ファンド/森林信託 | 投資家 → ファンドへ出資 → 森林へ投資 | 木材販売・カーボンクレジットなど | 長期収益を見据えたスキーム |
PESなどの環境支払い制度 | 利用者・事業者 → 森林管理者 | 生態系維持、地域貢献 | 環境価値に対する支払い |

注目されるグリーン投資の手段と事例
森林に関わる投資の手段は、近年ますます多様になってきています。ここでは、2つの事例を取り上げ、特徴と活用例を交えてご紹介します。
(1)グリーンボンド(Green Bond)
環境プロジェクト専用の“使い道が決まった債券”
グリーンボンドとは、森林整備や再エネ事業など、環境関連プロジェクトの資金調達を目的とした債券です。
「このお金は、環境のために使います」と目的が明確なので、投資家は安心して資金を提供できます。
仙台市グリーンボンド(令和5年度)
発行主体: 仙台市
発行総額: 30億円(2023年3月発行)
資金使途: 環境関連プロジェクト(全7件)
仙台市は、環境と調和した持続可能な都市づくりを進めるため、2023年に「グリーンボンド」を発行しました。調達した30億円は、次のような森林・環境関連の公共事業に活用されました。
主な対象事業(抜粋):
- 森林整備(植林・間伐など)
仙台市有林を中心に、災害に強い森林への転換やCO₂吸収量の増加を目指した整備を実施。 - 公共施設のZEB化(省エネ・再エネ導入)
- グリーンインフラ整備(雨水貯留施設、緑地保全など)
- 次世代交通施策(EV充電器、バス利用促進)
成果・効果:
地域金融機関や個人投資家の関心も高く、環境と経済の両立モデルとして注目。
事業によりCO₂排出量削減や炭素固定に寄与。
透明性ある報告と第三者評価(R&Iのセカンドオピニオン)によって、投資家の信頼を確保。

(2)森林ファンド・森林信託
プロが森を預かって、育て、価値を高める運用スタイル
森林を資産と捉え、長期的に管理・運用するのが「森林ファンド」や「森林信託」です。
企業や富裕層の間で注目されており、カーボン固定量や木材収益によって中長期のリターンを狙います。
ハンコック・ナチュラル・リソーシズ・グループ(HNRG)|米・ボストン本社
運用資産規模: 約630万エーカー(約255万ヘクタール)の森林
主な投資先: アメリカ、カナダ、ニュージーランド、チリなど
運用スタイル: 持続可能な森林経営+長期収益型のインパクト投資
特徴と取り組み:
- 投資家(主に機関投資家・年金基金など)から預かった資金で、各国の森林をポートフォリオとして運用
- CO₂吸収量(カーボンクレジット)や木材収益を両立させ、森林を「自然資本」として最大化
- 各森林の管理状況やESG指標(環境・社会・ガバナンス)を年次報告書で開示し、透明性を確保
- 森林再生・間伐・野生動物保全などの要素も評価対象に含まれ、「持続可能性」を重視
投資家への魅力:
ポートフォリオ分散の観点からも注目される「リアルアセット投資」
安定した長期リターン(木材・土地・炭素価値)
炭素クレジット市場の成長と連動し、「炭素価格の上昇」が将来の収益増に貢献

地元から始める「森の投資」 匠乾太郎植林基金の取り組み
森林ファイナンスというと、海外の大規模なファンドや都市部の投資家を思い浮かべるかもしれません。けれど、「森を育てるお金」は、もっと身近なところからも動き始めています。
院庄林業では「匠 乾太郎 植林基金」という活動を行い、森林の育成・保全活動を行っています。
これは、植林基金にご協賛いただいている企業の皆様から、院庄林業のオリジナル製品、国産ヒノキの天然無垢材ブランド「匠乾太郎(たくみ かんたろう)」の売上の一部を、未来の森林づくりのために活用する仕組み。
つまり、匠乾太郎を使えば使うほど、伐った分を森に還すサイクルが回るようになっているのです。
健全な森や環境を保つためには、前述したように「植林」と「伐採」を両輪で進めていくことが大切です。
成長した木を使い、苗木を植え、森林のサイクルを回す必要があ流ということですね。 植林しなければ次世代に資源を残すことはできません。

この仕組みの特徴は、ローカルで完結する“顔の見える森林ファイナンス”であること。山を育てる林業者、木を活かす企業、そして製品を使う人たちが、基金を通じてつながるモデルとなっています。
現状(2021年〜2024年12月末時点)
基金 56,908,252円
活用金額 41,274,262円
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植林本数 61,010本
植林面積 23.62ha
現状についての詳細はコチラ
“森を守る”から“森を育てる”へ 森林ファイナンスが開く未来
森林は、二酸化炭素を吸収し、生物多様性を守り、水資源を育む そんな“地球のインフラ”ともいえる存在です。けれど、森を守るには人手もお金がかかります。そして今、その資金を社会全体から集め、活かしていく仕組み=森林ファイナンスが注目されています。
森林整備や保全にお金を投じることは、環境対策であると同時に、投資でもある。そんな認識が、少しずつ社会に根付き始めています。
なぜ今、森林ファイナンスなのか?
脱炭素目標の実現手段として
カーボンニュートラルを掲げる企業が増える中で、CO₂吸収源としての森林は、排出削減に並ぶもう一つの柱に。森林を活用したカーボンクレジットのニーズが世界的に高まっています。
ESG投資の拡大と相性が良い
「投資することで環境が良くなる」 こういった社会貢献の側面だけでなく、森林ファンドや森林信託は、持続可能性と収益性を両立するモデルとして注目を集めています。
地域経済にも波及する
投資によって整備された森林では、間伐や植林などが行われ、地域の林業者や加工業者に仕事が生まれる。環境だけでなく、ローカル経済や雇用にもつながる点が評価されています。

これからの展望──「森は資産」へ
これまで森林は「自然」や「風景」として語られることが多く、経済や投資とは縁遠い存在でした。けれど今、少しずつ考え方が変わりつつあります。
森は、CO₂を吸収し、再生可能な資源を生み出す“未来を支えるインフラ”。そんな認識が、世界で広がっています。
たとえばヨーロッパでは、企業が環境に配慮した取り組みをしているかを分類する「EUタクソノミー(環境投資のルール)」という仕組みの中で、森林保全や植林も、きちんと評価の対象になります。
また、企業が削減できなかったCO₂排出量を、他の場所で吸収した量で埋め合わせる「カーボンクレジット市場」でも、健全に管理された森林が重要な役割を果たしています。
これからの時代、「森林は経済的な価値を持つ“資産”である」という見方が、もっと広がっていくかもしれません。
そして、そこにお金が流れれば、森林はもっと元気に、持続可能に育っていくはずです。
森林に投資することは、単に環境を守るための“寄付”ではありません。それは、《未来にリターンを生む「資産形成」》であり、社会全体の“健全な循環”を育てる行動でもあります。
気候変動が加速し、経済と自然の関係が見直される今、私たち一人ひとりもまた、「お金の使い方」に目を向ける時代に入っているのかもしれません。