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WEB MAG #26 “環境教育”の今と昔

“SDGs”や“カーボンニュートラル”といった言葉が飛び交い、企業や自治体、学校でも「環境への配慮」が当たり前になりつつある現代。
そんな今だからこそ、「環境教育」という言葉の意味を、あらためて見つめ直してみたいと思います。

「環境教育」と聞いて、みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか?

リサイクルの授業、校外での自然体験、森の中のネイチャーゲーム……。いずれも正解ですが、実は「環境教育」という言葉が生まれた背景には、もっと広く、そして深い意味があります。

そもそも「環境教育」とは、単に環境問題の知識を教えるだけの教育ではありません。
国連環境計画(UNEP)やユネスコなどの定義によれば、環境教育は  
「人々が自然と人間社会との関係を理解し、責任ある行動が取れるようになることを目的とした教育」
だとされています。

つまり、自然の仕組みや環境問題の原因と影響を知ることに加え、「自分は何ができるか」「社会をどう変えていけるか」という視点まで含めた、非常に主体的で実践的な学びなのです。

近年は「SDGs(持続可能な開発目標)」や「ESD(持続可能な開発のための教育)」などの言葉も浸透し、環境教育はますます多様で重要な位置づけになっています。
今回は、「環境教育とは何か?」という原点に立ち返り、その歴史や世界の事例、これからの可能性について一緒に考えてみたいと思います。


環境教育のはじまりと変遷

「環境教育」という言葉が広く使われるようになったのは、“エコ”や“SDGs”といった言葉が生まれるよりもずっと前のこと。
そのルーツは、1960〜70年代の世界的な環境問題の高まりにあります。

■ きっかけは「地球の危機感」

1962年、アメリカの生物学者レイチェル・カーソンが著した『沈黙の春』は、あまり知られていなかった農薬の残留性や生物濃縮がもたらす生態系への影響を公にし、社会的に大きな影響を与えました。
その後、1972年に環境問題をテーマにした初の国際会議として国連人間環境会議(ストックホルム会議)が開催されました。この会議では、「かけがえのない地球」をスローガンに、「人間環境宣言」が採択され、環境教育の重要性が国際的に認識されるように。「教育による持続可能な未来づくり」が課題として掲げられました。

■ 日本での動き:自然体験から公害対策、そして持続可能性へ

日本では、高度経済成長とともに深刻化した公害問題(四日市ぜんそく、水俣病など)が社会課題となり、1970年代から学校教育の中にも「環境」に関する学びが少しずつ取り入れられていきました。
当初は自然観察やごみ問題への理解を深める内容が多く、理科や社会科の一部として教えられていましたが、1990年代以降、「持続可能な社会」という観点が加わり、より広い視野での教育が求められるようになっていきます。

■「ESD」という新しい視点

2002年に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)」の実施計画の議論の中で、日本は「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」を提案し、各国の政府や国際機関の賛同を得て、実施計画に盛り込まれることとなりました。これは、環境だけでなく、貧困や人権、ジェンダーといった幅広い課題に目を向ける教育の考え方です。
国連は2005〜2014年を「国連ESDの10年」と位置づけ、各国で教育カリキュラムへの統合が進められました。日本でも「ESDの10年」関係省庁連絡会議が内閣に設置され、2006年3月に国内実施計画を策定するなど、多くの地域や学校でESDの実践が始まっていきます。


世界の環境教育の取り組み

「環境教育」は、各国の文化や社会背景に応じて世界各国さまざまな形で実践されています。
環境先進国として知られるスウェーデン、アメリカ、ドイツの取り組みをご紹介します。

スウェーデン:幼児期からの自然体験教育

2020年にSDGs世界ランキング1位だったスウェーデンは「環境先進国」としても知られており、「自然との共生」が教育の根幹にあります。
特に注目すべきは、幼児期から行われる「アウトドア教育」の充実ぶり。
保育園や幼稚園では、雨や雪の日でも子どもたちは屋外で過ごし、森の中で遊ぶことが日常です。この体験を通じて、

  • 季節や動植物への関心
  • 生態系に対する理解
  • 自然との距離感(壊さない・尊重する姿勢)

といった感性が自然に育まれます。こうした「五感を使った自然との対話」が、スウェーデンの環境意識の土台を築いているのです。

アメリカ:STEAM教育に組み込まれたサステナブル学習

アメリカでは、近年「STEAM教育〈=科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の5つの分野を統合的に学習する教育アプローチ〉」に、サステナビリティの視点が取り入れられる動きが進んでいます。

たとえば、

  • 再生可能エネルギーを用いた工作
  • 地球温暖化をテーマにした調べ学習
  • 学校菜園や堆肥づくりのプロジェクト

など、環境問題を理科や技術の延長で学ぶ取り組みが広がっています。

特に近年注目されているのは、「Project-Based Learning(課題解決型学習)」による環境学習。
アメリカの多くの学校では「課題解決型学習」を通じて、環境やサステナビリティに関する教育が積極的に取り入れられています。これは、教科横断的に、現実の地域課題(廃棄物・水質・再生可能エネルギーなど)をテーマに、チームで調査・実践・プレゼンする学び方。
地域の水資源を守るにはどうする? 廃棄物を減らすアイデアは? といった実社会とつながる課題に、生徒がチームで挑戦しているそうです。

ドイツ:学校と森林管理者の連携

自然保護と環境への取り組みが盛んなドイツでは、森林と教育の密接な関係が特徴です。
学校教育の中で「森に学ぶ」ことは特別な活動ではなく、ごく自然なもの。森林官(フォレスター)や林業関係者が学校の授業に参加し、森の役割を伝える機会も多くあります。
子どもたちは教室を出て、実際に森へ出向き、森林官(フォレスター)や森林管理者から直接学ぶ体験も重視されています。

ドイツでは、各地に「ヴァルトシューレ(森の学校)」が存在し、子どもたちが実際に森へ足を運び、森の中で過ごしながら、

  • 森林の循環や間伐の意味
  • 動植物との共生
  • 森林がもたらす恵み(木材、水、空気など)

といったことを学びます。こうした実地の学びが、ドイツの持続可能な森林経営や市民の自然観に根付いているのです。


日本における環境教育の取り組み

日本でも前述の通り、「環境教育」は1970年代から広がりを見せ、時代の流れとともに大きく変化してきました。近年では、ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGs、地域との連携を軸に、より実践的・体験的な学びが各地で展開されています。


■ 法律による後押し──「環境教育等促進法」
2003年に施行された「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」(通称:環境教育等促進法)は、日本の環境教育の方向性を大きく後押ししました。

  • 学校教育における導入(例:総合的な学習の時間での実施)
  • 地域・企業・NPOと連携した体験型プログラムの支援
  • 環境省・文部科学省による「環境教育・学習推進拠点」の設置

この法律によって、学校外の地域資源を活かした取り組みや、ESD(Education for Sustainable Development)の推進も本格化しました。


■ 地域に根ざした教育実践の広がり
近年では、都市と地方を問わず、地域に根ざした実践的な取り組みが増えています。

① 高知県・仁淀川流域
清流・仁淀川を教材として活用し、町内外の小学生が水生生物の観察や水質調査に取り組む環境学習。地元NPO、大学、町教委などが連携し、「川と森のつながりを体験から学ぶ教育モデル」を構築。
参考URL: https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/2020042700124/file_contents/file_20205203111657_1.pdf


② こどもエコクラブ(環境省・公益財団法人日本環境協会)
「こどもエコクラブ」は、環境省の支援のもと、公益財団法人日本環境協会が全国展開している環境教育プログラムです。小学生から高校生までの子どもたちが、学校や地域、家族単位で自由にクラブを結成し、身近な環境問題について考え、体験的に学びながら行動することを目的としています。
・自然観察(植物・昆虫・水辺など)
・ごみ拾いやリサイクル活動
・再生可能エネルギーの学習・工作  などなど
参考URL: https://www.j-ecoclub.jp/about/


③ 東北森林管理局「森林環境教育取組事例集」
林野庁・東北森林管理局が発行した本事例集は、東北地方の各県において実施された 《森林環境教育・木育・自然体験活動 》の実例を体系的にまとめたものです。学校や自治体、NPO、森林管理者などが連携し、子どもたちが森林の役割や自然との共生を体感的に学べる取り組みを紹介しています。
参考URL: https://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/sidou/fukyu/attach/pdf/kyouiku-9.pdf


“木とともに育つ”  院庄林業の木育イベント

「木にふれ、山を知り、未来を育てる」。
そんな思いから、院庄林業では近年、子どもたちに向けた「木育(もくいく)」活動に力を入れています。

きっかけは、地元の勝間田高校(森林コース)などからの授業依頼でした。
「林業の現場で働く人から、直接話を聞きたい」──そんな声に応える形で、社員による出張授業が始まり、次第に社内でも「子どもたちに山のことを伝えたい」という機運が高まっていきました。

BtoB企業として一般の人と触れ合う機会が少なかったこと、地域貢献の機会が減っていたことも背景にあり、「地域に恩返しをしたい」という想いが、活動の原動力になっています。

山と木の魅力を“遊び”と“学び”で伝える

最初に行われたのは、社員の子どもたちを対象とした植林イベント。
自社で管理する山に苗木を植え、「この山を、木を、資源を、未来につないでいく」という使命を、次世代に手渡す場となりました。
当初は試行錯誤の連続でしたが、次第に保育園や小学校などからも依頼が届くようになり、活動の幅が広がっていきます。

現在は、年齢や対象ごとにプログラムを柔軟にカスタマイズ

  • 幼稚園・保育園向け:
     ・ヒノキの玉すくいや、丸太に開けた穴から虫のおもちゃを探す遊び
     ・木にふれる体験と絵本の読み聞かせ
  • 小学生向け:
     ・「なぜ山が必要なのか?」をみんなで考える授業
     ・工場見学や、木材パーツを使ったミニチュア建築ワークショップ
    などなど

「林業や木材加工に直接関わっていない人たちにも、木の面白さや森の大切さを知ってほしい」  それが、私たちの共通の想いです。

夢は、“木のしごと”パークの開設

岡山県北を中心に活動していますが、最近では倉敷市や岡山市からの依頼も増えてきました。
我々のモットーは、すべてのご依頼に応えていくこと。

そしていつかは、木と森の仕事が体験できる「キッザニア」のような“木のしごとパーク”をつくるのが夢です。
地域の森を守り、木とともに育つ未来を描く、その第一歩として──木育の輪は、少しずつ確実に広がっています。


環境教育」は、次の未来をつくる道しるべ

かつて「環境問題」は、専門家や活動家だけが関わるテーマだと思われていました。しかし、気候変動や生物多様性の喪失、資源の枯渇といった課題が世界規模で顕在化するなか、それらに向き合うための知識や感性は、子どもからお年寄りまですべての人に必要とされています。

環境教育は、そういったことを「考える力」を育てる出発点です。
教科書の知識だけでなく、実際に自然にふれたり、地域の人と話したりしながら、身近なところから問いを立て、行動に移す──そんな経験の積み重ねが、未来の選択を変えていくのではないでしょうか。

環境教育が、そんなきっかけをくれる場であってほしい。
そう願いながら、これからの歩みをまた見つめていきたいと思います。