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WEB MAG #41 キノコの正体 ─菌糸からひもとく不思議な生き方─

秋の味覚といえば、キノコ。
シイタケやシメジ、マイタケ、エノキタケなど、食卓でもおなじみの存在です。


では、そもそもキノコとは何なのでしょうか。
野菜のように見えますが、キノコは植物ではありません。カビや酵母と同じ「菌類」の仲間です。

植物のように葉緑素を持たないため、自分で光合成をして栄養をつくることはできません。そこで、落ち葉や木など、ほかの生き物がつくったものから栄養を得て暮らしています。

普段は、土の中や落ち葉、木の中などに「菌糸」と呼ばれる細い糸状の体を広げて暮らしています。
この菌糸が、キノコの本体ともいえる部分です。

そして、菌糸が十分に成長し、温度や水分などの条件が整うと、そこから「子実体」がつくられます。
これが、私たちが「キノコ」として目に見えている部分で、美味しく食べている部分ですね。
子実体の大きな役割は、次の世代を残すための「胞子」をつくること。
傘の裏側にあるヒダなどでつくられた胞子は、風などに乗って周囲へ広がります。そこで生育に適した場所にたどり着くと、再び菌糸を伸ばしていきます。

土や木の中に広がる菌糸が本体で、子実体は植物でいう花や実のような存在ということですね。

つまり、秋の森で突然キノコが“生えてきた”ように見えても、その前から菌糸は見えない場所で暮らしているのです。

日本には、4,000〜5,000種類ほどのキノコがあるといわれていますが、正確な数はまだ分かっていません。

そのうち食用とされているものは約100種類。毒キノコは200種類以上が知られていますが、それ以外の多くは、食べられるのか毒があるのかさえ分かっていないとされています。

そして、キノコは種類によって「どうやって栄養を得るか」も違います。

シイタケやナメコ、エノキタケ、ブナシメジなどは、枯れ木などの有機物を分解しながら栄養を得る「腐生性」のキノコ。

一方、マツタケやホンシメジなどは、生きている木の根とつながり、互いに栄養をやり取りしながら暮らす「菌根性」のキノコです。

同じように地面や木から生えているように見えても、その暮らし方はまったく同じではありません。

スーパーに並ぶ身近なキノコから、森の中でしか出会えないものまで。
ひと口に「キノコ」といっても、その種類も、生き方も実にさまざまなのです。

参考:林野庁「きのこのはなし」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/kinoko/


キノコは、どこから栄養を得ている?

植物のように光合成ができないキノコは、外から栄養を得なければ生きていけません。
では、その栄養をどこから得ているのでしょうか。

キノコは、栄養の取り方によって大きく「腐生性」と「菌根性」の2つに分けて考えることができます。

まず、シイタケやナメコ、エノキタケなどの「腐生性」のキノコ。

これらは、枯れ木や落ち葉などの有機物を分解し、そこから栄養を吸収して暮らしています。

森に倒れた木は、そのままの姿でずっと残り続けるわけではありません。
キノコなどの菌類が菌糸を伸ばし、木材を形づくる成分を少しずつ分解していきます。
実は、木材に多く含まれるセルロースやリグニンなどは、簡単には分解されない物質です。
それを分解できる菌類は、森の中で“分解者”として大切な役割を担っています。

一方、「菌根性」のキノコは、生きている木の根とつながって暮らします。

代表的なのが、マツタケやホンシメジです。

菌根性のキノコは、木の細い根に菌糸を広げ、「菌根」と呼ばれるつながりをつくります。
そこで行われているのが、栄養の交換です。

木は、光合成によってつくった糖などをキノコへ。
キノコは、土の中に細かく伸ばした菌糸を使って集めた水分や窒素、リンなどの養分を木へ渡します。

木の根だけでは届きにくい細かなすき間にも、菌糸は入り込むことができます。
木にとっては、土の中から水分や養分を集める範囲が広がることになります。
一方のキノコは、木が光合成でつくった栄養を受け取る。
一方だけが得をするのではなく、互いの得意なことを持ち寄って暮らしているのです。
だから、マツタケがマツ林に生えるように、特定の木の近くで見つかるキノコがあります。

地上に見えているキノコだけを見ていると気づきませんが、その下では、細い菌糸を通して木とキノコがつながっています。

「枯れたものを分解して暮らす」ものもいれば、「生きている木と助け合って暮らす」ものもいる。
キノコの生き方は、見た目以上に多様なのです。


キノコを育てる ─ 原木栽培と菌床栽培

今では一年を通してスーパーに並んでいるキノコ。
自然の中で採ってきたものばかりではなく、その多くは人の手によって栽培されています。

キノコの代表的な栽培方法は、大きく「原木栽培」と「菌床栽培」の2つです。

「原木栽培」は、その名の通り、木を使って育てる昔ながらの方法。

コナラやクヌギなどの原木に穴をあけ、キノコの菌を培養した「種菌」を植え付けます。
すると菌糸が少しずつ木の内部へ広がり、木材を分解しながら成長していきます。
十分に菌糸が広がり、温度や水分などの条件が整うと、やがて原木から子実体、つまり私たちが食べるキノコが顔を出します。

シイタケなどでは、この方法が古くから行われてきました。

一方、現在広く使われているのが「菌床栽培」です。

菌床とは、おが粉に米ぬかなどの栄養源と水を加え、ブロック状などに固めた培地のこと。
ここに種菌を植え付け、温度や湿度などを管理した施設の中で菌糸を育てます。


自然環境の影響を受けやすく、菌糸を育てるのにも時間がかかる原木栽培に対し、菌床栽培は温度や湿度などを管理しやすく、比較的短い期間で安定して生産できます。

実際、生シイタケも、かつては原木栽培が主流でしたが、現在は菌床栽培が大半を占めています。
林野庁によると、2025年の生シイタケ生産量のうち、菌床栽培の割合は95.1%でした。

普段何気なく手に取っているキノコも、菌糸が栄養を吸収して育つ性質を利用してつくられているということです。

ただし、どんなキノコでも同じように栽培できるわけではありません。
シイタケやナメコなどの腐生性キノコは、原木や菌床から栄養を得ることができるため、人工的に育てることができます。
一方、生きた木との共生によって暮らす菌根性のキノコは、事情が少し複雑。

秋の味覚の代表格・マツタケも、その一つです。
アカマツなどの生きた根とつながって暮らすため、現在も実用的な人工栽培技術は確立されていません。

スーパーで一年中出会えるキノコと、今も山へ探しに行くキノコ。
その違いにも、それぞれのキノコの“生き方”が関係しているのです。

参考:林野庁「特用林産物の生産動向」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/tokusan/


山のキノコを楽しむ ─ きのこ狩りと毒キノコ

栽培技術が発達した今でも、秋になると山へ入り、自然に生えたキノコを探す「きのこ狩り」が各地で楽しまれています。
落ち葉の間や木の根元、倒木の上。
どこに、どんなキノコが現れるのか分からないのも、自然の中で探す楽しさの一つです。

一方で、野生のキノコには注意も必要です。

日本には200種類以上の毒キノコが知られていて、中には食用キノコとよく似たものもあります。
例えば「ツキヨタケ」は、シイタケやヒラタケなどと間違えられることがある代表的な毒キノコ。
そのほかにも、食べられるキノコと姿が似ている種類があり、見た目だけで判断するのは簡単ではありません。

さらに厄介なのが、昔から伝わるキノコの「見分け方」。
「縦に裂けるキノコは食べられる」
「色が鮮やかなものは毒キノコ」
「虫が食べているキノコなら人も食べられる」
こんな話を聞いたことがあるかもしれませんが、いずれも科学的な根拠はありません。

また最近では、写真を撮ってインターネットの画像検索などで種類を調べることもできますが、キノコには個体差があり、よく似た種類も多いため、画像だけで食べられるかどうかを判断するのは危険です。

食用だと確実に判断できない野生のキノコは、食べないこと。
自然のキノコを楽しむ時には、「知らないキノコには手を出さない」という慎重さも大切です。


マツタケとアカマツ ─ 人工栽培が難しい理由


秋の味覚の中でも、特別な存在感を持つマツタケ。
シイタケやエノキタケなど、多くのキノコが一年中栽培されている一方で、マツタケには現在も実用的な人工栽培の方法が確立されていません。

その大きな理由が、前に紹介した「菌根性」という生き方にあります。
マツタケは、主にアカマツなど生きている木の細い根と菌根をつくって暮らしています。
木からは、光合成によってつくられた糖などを受け取り、マツタケの菌糸は土の中から集めた水分や養分を木へ渡します。

つまり、マツタケだけを取り出して、栄養の入った培地に植えれば育つというわけではないのです。
さらに、マツタケの菌糸は地中に広がり、「シロ」と呼ばれる菌糸の集まりをつくります。
このシロから、条件が整った時に私たちが目にするマツタケの子実体が現れます。


生きた木の根との共生、土の状態、温度や水分など、自然の中で成り立っている複雑な環境を人工的に再現し、安定してマツタケを発生させるのは簡単ではありません。
そのため現在も、国内で流通する国産マツタケは、自然に発生したものを採取しています。

林野庁によると、2025年の国産マツタケの生産量は15トン。長野県や岩手県とともに、岡山県も主な産地の一つに挙げられています。

人工栽培が当たり前になったキノコがある一方で、人と木と菌だけでは簡単に再現できない自然の関係の中で育つキノコもある。
マツタケの希少さの背景には、そんな独特の生き方があるのです。

参考:森林総合研究所「どうしてマツタケは人工栽培をすることができないのですか?」
https://www.ffpri.go.jp/qa/resources/qa-resource13.html

参考:林野庁「特用林産物の生産動向」
https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/tokusan/


食卓ではすっかり身近な存在のキノコ。

けれど、その姿を少し掘り下げてみると、私たちが目にしている傘や柄は、広い菌糸の世界のほんの一部にすぎないことが分かります。

枯れ木を分解しながら暮らすもの。
生きた木の根とつながって暮らすもの。
人の手で安定して育てられるものもあれば、マツタケのように、今も自然の環境に大きく頼っているものもあります。

同じ「キノコ」という姿をしていても、その生き方は実にさまざま。
秋の森で見つける一つのキノコも、スーパーに並ぶシイタケやシメジも、その奥には目に見えない菌糸の世界が広がっています。